日本一おかしな公務員と『関係人口』を考えるー地域をおもしろがる力と人が集まる企画のつくり方ー【関係人口シンポジウム】 イベントレポート

地域の抱える課題は多々ありますが、課題に立ち向かっている人も増えつつあるように感じます。

「地域にはプレイヤーが足りていない」といった声もある中で、地域をおもしろがっている人のところには、やはり人が集まってくるようです。

では、人が集まる地域では一体どのような取り組みが行われているのでしょうか?

今回のイベントでは「地域をおもしろがる力と人が集まる企画の作り方」というテーマを元に、前半部分では日本一おかしな公務員の山田崇さんによる基調講演を、後半部分では鳥取県内で活動されている三名の方にも登壇いただき、トークディスカッションを行いました。

今でこそ『日本一おかしな公務員』と呼ばれている山田さんも、最初からそうだったわけではありません。山田さんのはじめの一歩は何だったのでしょう。

自分が違和感を感じたことをやる

山田:「私は、違和感を感じたこと、昨日とは違う行動をやってみました。『空き家を一軒借りてみよう』と宣言をして実際に空き家を借りてみたんです。」

山田崇:1975年塩尻市生まれ。千葉大学工学部卒業。塩尻市役所企画政策部 地方創生推進課地方創生推進係長。空き家プロジェクトnanoda代表。2014年「地域に飛び出す公務員アウォード2013」大賞を受賞。TEDx Sakuでのトーク「元ナンパ師の市職員が挑戦する、すごく真面目でナンパな『地域活性化』の取組み」が話題に。2016年1月からは「MICHIKARA〜地方創生協働リーダーシッププログラム」を、首都圏のプロ人材との協働による官民連携プロジェクトをスタート。グッドデザイン賞2016受賞。2016年5月から内閣府 地域活性化伝道師に。日本一おかしな公務員(日本経済新聞出版社)著者。

『空き家問題』は新聞やニュースでも騒がれている問題のひとつ。ただ人に言われたから問題と捉えるのではなく、実際に自分で足を運んでみることが大切と山田さんは続けます。

山田:「私が感じたのは、レタス農家の息子である私が、商店街に住んだことがないのに、税金で給料をもらって商店街を活性化することができるわけがないという違和感でした。」

山田さんはまずは三ヶ月やってみようと、朝7:00〜8:00までシャッターを開けてそこに居るということをしたそうです。

山田:「何が起こっているのか現実を見てみる。そこで自分が何を感じたのか、どんな声をかけてくる人がいるのか、三ヶ月記録を取ってみようと思ったことがきっかけでした。」

山田:「全ての人に共通しているのは一週間、168時間あるということ。自分が1週間のうちに1時間でも30分でもいいからちょっと行動を変えてみる。それは誰かに言われたことではなく、周りの人に理解されなくても、あなたの心から出て来たことを紙の端っこにメモをする、今日はそんな時間にしたいと思っています。」

塩尻に多くのインターン生が来る理由

ソフトバンクと組んで行っていた、革命体感型インターンシップ『TURE TECH』をはじめ、塩尻市には多くのインターン生が来ます。ですが、塩尻だから多くのインターン生が来るわけではないと山田さんは話します。

山田:「世界で初めて人口が減り、企業は大量生産ではなく、一点突破をしていかないといけない。その時に、今の売り上げも建てながら、社長は従業員の先頭に立って新しいことに挑戦しなきゃいけないんです。そこで、一部分をプロジェクト化して設計し、学生に新しいことをやってもらい、4週間やってみたら何が起こるのか記録をとることにしました。」

プロジェクトベースで行われるインターンは社長一人ひとり、プロジェクトが異なる点がおもしろいポイントの一つ。

山田:「社長一人ひとりの異なるプロジェクトを可視化することで、『こういったことができるのであれば応募してみよう』と応募が集まるんです。社長の頭の中が顕在化された応募ページがおもしろそうだから応募してみたら塩尻だっただけです。多くの学生は塩尻だから選んで来るわけではありません。」

地域はもっと不動産を活かした方がいい

『不動産』と聞くと空き家のイメージを持つ方も多いかもしれませんが、そういうことではありません。

山田:「例えば、鳥取だと大山や海の位置は変わらないじゃないですか。そこをもっと強みにしていった方がいいと思います。塩尻の715mという標高も変わらないんです。だから豊かな水や気候であったり、レタスが作れるということもあるんです。」

これからの地域はどう差別化していくかが大切だと山田さんは言います。

山田:「みなさんがケータイに書いてある誰かが言ったことをやり始めると、正解がコモディティ化して、みんなが同じことをするようになってしまいます。」

例えば、500万円かけて2000体の中に放り込む、ゆるキャラもそのひとつかもしれません。

山田:「私は、『市役所をハックする』という新しいコミュニティをオンラインで作りました。そこには全国で境界を越えて自分たちで感じたことを共有できる関係性を作り、塩尻だからその挑戦ができるんだって人たちと一緒に活動をしています。」


後半パートでは、弊社代表の中川が司会を務め、山田さんに加えて、鳥取県内で活動されている齋藤さん、出口さん、松浦さんの計4名によるパネルディスカッションが行われました。

はじめの一歩は

登壇者の皆さんも翌朝起きたら今の状況になっていたわけではない、皆さんのはじめの一歩が気になります。「松浦さんのはじめの一歩はなんだったんですか?」と齋藤さんが投げかけます。

松浦:「大学に入り机の上で勉強をしてるだけはおもしろくなかったので、色々なところに飛び出していたら、用瀬町の役場の人から空き家で何かやらないかと声をかけていただいて。そこで、自分で地域のことをわかったつもりにならないように地域の住民になってみようと思い、週末限定で住人になるというところから始まりました。」

東京出身の松浦さん、東京には地方ほど関われる余白がなかったため、鳥取に来たと話します。

中川:「齋藤さんのはじめの一歩は?」

齋藤:「4年前にリノベーションスクールが鳥取であったとき、空き家問題を事業で解決しようということで与えられたテーマが鳥取大丸でした。それを事業化していこうということで法人を作ったんです。」

空き家が目立ってきている中で、遊休不動産と色々な新しい事業をつなぎ合わせておもしろい街になっていけばいいなと齋藤さんは考えているそうです。

地域の人の巻き込み方

学生と地域とのパイプ役をされている出口さんに、次のような質問が飛びます。

中川「出口さんは地域の方の巻き込み方や気を使っている点はありますか?」

出口「私が住んでいる多里という地域は元々クロム鉱山がすごく栄えた地域だったので色々な方が外部から入ってきていた地域でした。そのような背景もあり、元々外部の人を受け入れやすい素地ではあったのかなと思います。」

地域の方が気を使ってお互いくたびれてしまうような状況にならないために、外からくる人が料理を手伝ってくれたり、もてなされるだけの人ではないということを共有するようにしていると出口さんは続けます。

出口:「終わった後、学生さんに来てもらったことで何がどう変わったかという点を地域の方に返すことができていないので、今後その辺りを返すことができるようにしていきたいと思っています。」

中川:「松浦さんは用ヶ瀬に入って行った最初の頃はどうでした?」

松浦:「用ヶ瀬は街道筋沿いなので割と外から人が来るのが当たり前というか三代遡ったら外から来た人ばかりみたいな地域なので、外から来た人に対して抵抗がないイメージです。」

松浦さんは住民になると宣言し、色々な役割も適度に引き受けながら丁寧なコミュニケーションを心がけているそうです。

松浦:「丁寧なコミュニケーションを積み重ねることで、外から新しい大学生が来たときもみなさんがよくしてくれる状態になっています。出口さんに質問なんですけど、インパクトをどう可視化するのか?価値を理解してくれる人以外にどう届けるか?という部分はどのように考えていますか?」

その質問の内容に対して、山田さんが松浦さんへ問いかけます。

山田:「なぜ多くの人に伝えたいの?」

松浦:「自分がやってることを発展させていくためにも、今関わっていな人のリアクションも得たいんです。そうしないと自己満足で終わってしまいそうで。」

山田:「自分の心の声に従ってやっていれば多くの人に知ってもらいたいと思うのかな?例えば、ここが映画館だったとして、彼女と2人で映画を観にいったら満席でしたという場合と、2人だけで貸し切りでしたという場合どっちがいいかっていうと私は貸切がいいんですよ。」

満席だった場合は隣からはポップコーンの匂い、前のおじちゃんは貧乏ゆすりをするし、隣のおばちゃんポテチ食っていても同じ値段なんです。それであれば、好きな映画を彼女と2人で見る方が圧倒的に好きなんですと山田さんは続けます。

山田:「2人しか入らなかったときに困るのは映画館で、たくさんのお客さんが入って欲しいというのは映画館側の勝手な期待なんです。人口減るのが何がいけないのかと一緒で、こんなに豊かなところを、今の若い人は貸切れるんですよ。鳥取の面積は100年経っても減らないし、海だって干からびないし、大山も急に標高が低くなったりしない。」

肩書きによって、意識は変わってしまうのかもしれない

松浦「今の話をお聞きして府に落ちたのが、去年までは単なる一大学生という立場だったのに、今年からは役場の一職員という立場をもらってしまったということもあって、自己満足ではいけないと勝手に感じているのかもしれません。」

山田:「なるほど。それはもっと自分を深掘りしたほうがいいかもしれない。気になったものは自分で探しにいくんです。」

ググった先にそれがあるかどうかが大切で、それが違うか自分に合ってるかわかるということが大切だと山田さんは言います。

中川:「出口さんは肩書きを気にすることありますか?」

出口「地方公務員としは取り組んでいることは実績として色々な人に見せないといけないという認識です。住民の方が、行政を頼ってくれたことを、うちではできないと言いたくないという思いもあるので、自分のところでできないというのを公表する塩尻市はすごいと思います。」

登壇者1人ひとりの想い

齋藤「自分の子供や下の世代が余白を楽しめる価値観を持って、自分のエリアに関わってくれたらいいなと思っています。」

出口「困っているところやどうしたらいいのかというところを声に出したり、つなげていけるような地域の職員でありたい。日本一〇〇な公務員と名乗ったらいいんじゃないかと後輩に言われて、色々な方に聞いたら、日本一電話の長い公務員と言われました。」

松浦「大学生と言っても一個人でしかないので大学生という肩書きでカテゴライズするのではなく、1人の人として向き合うことが大切だとぼやっと考えています。」

山田「望んでようが望んでなかろうが目の前で起こっていることがすべてなんです。知らないものの方が多くなってきているんだなという感覚があって、知らないことは選択できないんですよ。好きかどうかもわからないし、だから少しでも気になることがあったら現場に行ってみたり起業してみたり週末住んでみたり、その中で経験が溜まっていくと自分に合ってるとか好きかもとか分かってくる。ちょっとやってみましょ、自分の関心に従って。」

*

登壇者の方々や山田さんも今でこそすごい取り組みをされているように感じるかもしれませんが、一歩ずつ踏み出して行ったことが蓄積して今があります。

取り組んでいることが急に大きくなることは少ないかもしれませんが、少しずつでも積み重ねていくこと、そして自分の心の声に従うことでそれを継続させることができるんだなと感じました。

自分がおもしろいと思ったことを続けていくことで、周りにもだんだん人が集まって、できることが増えていくのかもしれません。

私も、自分の興味があることを見つけて心の声に従ってみようと思いました。

おもしろがろう、鳥取

人が少ないか、チャンスが多いか お金がないか、知恵を出し合うか なにもないか、なんでもつくれるか。 地域には、「おもしろがる」人が必要だ。 おもしろがろう、鳥取。