梨農家のせがれがゲストハウスを通して地域をおもしろがるーたにがみ農園 谷上雄亮
鳥取市街地から車で30分ほど走らせると鳥取市佐治町につくことができます。道の両側に山が近づき、谷合のむらというという場所。ここで梨農家をやっている谷上雄亮さんにお話しを伺いました。
(佐治川を山が挟む風景)
進学で地元を離れ、帰郷後はまちづくり会社の社員に
谷上さんはもともと佐治の出身、ご実家が梨農家ということもあって、高校進学は農業高校を選びました。実家から通学できる距離ではなかったので、高校時代から寮生活をすることになります。卒業後すぐに佐治に戻る選択はせずに、茨城県つくば市にある(農研機構の)農業研修機関へ進みます。
谷上:「もちろん最初は農業の勉強をやりに関東へ出たのですが、いざ帰るタイミングになってみると、そちらの暮らしも楽しくなっていたので、もう少し残ろうと思いました。もうちょっと残ってみようという感じです。結果的によく通っていたバーでバーテンダーとして働かせてもらいました。いずれは帰ろうと思っていたのですが、3年働いた頃に、実家から声がかかりました。佐治のまちづくり会社で、仕事があるから帰って来いと。このタイミングでの声掛けに帰ってみることにしました」
まちづくり会社とは、(株)さじ弐拾壱のことです。鳥取市佐治町の地域振興を目的として、農林業の作業受託や道路維持、買い物支援や観光産業など地域住民の暮らしやすさと保全の一手を担っています。
約10年間、事務局としてグリーンツーリズム事業の立上げや、農林作業受託、冬には除雪作業と地域の攻めと守りの事業の中心人物として働きます。
谷上:「梨よりも地域づくりの方が面白くて、そっちをいろいろやっていてどんどん広げていったら、今度は梨もやりたくなったというか、梨は今ちゃんと継がないといけないタイミングになったというかそんな感じです」
キッカケは青年団を立上げてみたこと
現在は、シャワークライミングやゲストハウスと複数の活動を起こしている谷上さんですが、キッカケはなんだったのでしょうか。
谷上:「グリーンツーリズムや(農作業受託)事業など、最初の話し相手は地域のおじいちゃん、おばあちゃんばかりだったんですね。同世代の若い人と接点がもちたいなと思ってた時に、たまたま国の公務員の人が近くにいて青年団を作ろうって話になりました。自分も父親たちから青年団活動を聞いていたので、面白そうだなと思って青年団を立ち上げました。その人は異動していないので、立上げ逃げですが(笑)」
青年団活動として地域の若者を巻込みながら、面白そうなことを一緒に少しずつやっていくことになります。地域の若者を巻込む秘訣を聞いてみると。
谷上:「YESと言ってくれそうな人に声をかけるのがポイントかなと思います。彼だったらやろうって言ってくれるだろうとイメージできたら声をかけます。みんな農家というわけでもなくて、いろんな仕事をしているので、それを踏まえながらという感じですね」
そんな中、シャワークライミングを始めるキッカケもやってきます。
山王アウトドアクラブでシャワークライミングを始める
谷上:「最初は遊びの延長で考えていて、別の地域でシャワークライミングをやっていると聞いたんですね。その方に講師で来ていただいて、地域の川で試しにやってもらった、これは行けると思いました。川の深いところがあれば、思ったよりも楽しんでもらえるメニューができるんですね。佐治ではそれができると確信して始めました」
地域を超えたメンバーでインストラクターを分担しながら、お客さんに対応しているとのこと。
谷上:「今年も夏だけで500名くらい来られています。メインのお客さんは島根、姫路、岡山です。島根が意外ですけど、アクティビティが少ないみたいでそれで来るみたいです。もっと関西圏から来るかと思ったのですが、兵庫県にもアクティビティの場所はあるみたいで、そちらに行っていると考えています」
シャワークライミングの申し込みは年々増えていて、現在の体制ではインストラクターが対応するのが大変になってきています。
谷上:「夏にシャワークライミングで稼ぎたいって人がいたら、一緒にやりたいです。僕らは梨の生産もあったりするので、任せられる人がいるならチャレンジしてほしいです。泊るところもありますし、ガッツリ関わりたい人に来て欲しいです」
山王アウトドアクラブではインストラクターの養成講座もやっていて、地域おこし協力隊の人や、他地域の人のチカラも借りつつ対応しています。インストラクター養成講座を受けてもらって何度かサポートしてもらえたら、インストラクターとして対応も可能とのことです。
ゲストハウスを始めて感じている地域の物件と自分
(ずっと気になっていた、改修前の物件)
谷上:「もともと自宅の隣で空いていることは気になっていて、買おうかどうかを2年くらい悩みました。自分の梨の作業の場所としても活用できるかもということで、持ち主の方に相談して買うことにして。でも買ってからも1年は特に手はつけませんでした。いろいろその他のことも忙しかったし、活用が見えてこなかったので。」
当初は活用案がおぼろげだったのですが一つの案が浮かんできます。
谷上:「そんな中、昨年度(2018年度)、ワーキングホリデーという制度を知って外部の人材を活かす方法が見えてきたので、ゲストハウスへの改築をすることにしました。当初は自分でコツコツとやろうとも思っていたのですが、地元の大工さんにお願いしながら、空間づくりが進みました。」
(改修後の1階の様子、右手奥がキッチン、左手の階段で二階にあがる)
2階建ての小さな秘密基地のような物件。一階が1フロア、二階も1フロア。合宿などグループで使うには良い雰囲気です。夏にはシャワークライミングのサポートに来てくれた方に使ってもらったそうです。
谷上:「泊るところの確保をするだけで、来て良いよという情報が出せることが大きいなと感じました。やることは地域に一杯あるので、興味のある人はまず来てほしい」
現在も募集中のワーキングホリデーなど受入れ経験を積みながらゲストハウスは徐々に、より良い使い方を模索していく物件になっていきそうです。実は所有することに大きなこだわりはないそうで、
谷上:「おためし住宅のような感じで住んでもらって、もし良かったら買ってもらうのもありかなと思っています。僕は次の空き家を買ったり借りたりして場所は作ればよいし、まだまだ地区内でも空き家はたくさんあるので、いくらでもできるなと」
ワーキングホリデーの内容について
ここでたにがみ農園のワーキングホリデーの内容についても教えてもらいましょう。
谷上:「メインは梨農家の作業(農業支援)がワーキングホリデーのメインになります。夏場であれば、袋掛け・収穫・出荷のサポート。冬場であれば、枝切りのサポート(片付けなど)があります。枝を切ったりする作業は技術がいるのですが、技術がいらない作業を最初はやってもらうと思います。冬はあとは梨の木の皮を削る作業があるんですよ。体力的に自信のある男性が来てくれたらアンカー打ちをお願いしようかなと思ったりしています。」
谷上:「梨が一時に必要な作業が多いので、外の人と連携してやるのはアリだと思いますし、ワーホリなどを活用して、僕らも家族以外の人と連携して事業を行っていく練習をしたいと思っています。」
谷上:「外の人に”何それ?”って思ってもらわないといけないですよね。例えば”梨の袋掛け検定”とか誰か作らないかなと思ったりします。袋掛けはうまい人と初めての人の技術差はすごくあるので、うまい人がわかれば戦力としても考えられますし、毎年、その時期だけ助けに来てもらえたらありがたいです。県外の人も名刺に”梨の袋掛け検定2級”とか書いてあったら面白いと思いますし、いろんな経験をやってみたい人が一定数いると思うので、誰かやらないかなぁ。周りの農家も人がいると助かると思っているので、何とか組み合わせできれば、面白いと思います」
今年から梨農家を軸足に
谷上:「今年度(2019年)から梨農家が専業になりました。基本は実家の”たにがみ農園”の梨畑の管理を行っています。東京の行政や企業と連携してスマート農業についての取組みを始めてみたりとか、やりたかった農業のことを少しずつやっています」
谷上:「スマート農業の動きが面白いし大変。やるまでは、都会の人たちのノウハウを活用してもらいながら進めれば、大きな変化が訪れると思っていたのです。でも、なかなかそこも難しくて、自分たちもその土地にあわせた方法を一緒に探していく感じです。農業のサポートは気候や地形などの特性が多いので、システムを入れてどうではなく、技術も使いながら、地域と一緒に考えながら走っていく形になるんじゃないかなと感じています。地域と企業のお互いが寄り添っていかないと難しいと感じています」
新しいことを地域に合わせてチューニングしていく感じです。
谷上:「少しずつ、省力化できる部分については工夫しつつ、周りの農家にも使いやすい形を見せていく感じになると思います。そもそも、めいっぱい農家って働いてしまうので、余白が無いんですね。余白を作れますとか、簡単ですみたいな方法を入れていかないと難しい。でも技術が入ることでがらっと変わる瞬間も体験しているし、改善場所も見えてきます。」
谷上:「農業を軸に考えるといいつつも、夏はシャワークライミングの受け皿もやっていますし、このゲストハウスも立ち上げたし、まちづくり会社の農村体験の事務局などは引き継ぎながらやっているという感じです。”梨農家”ではあるのですが、いろいろな動きと連動している感じです。農園としてもワーホリで一緒に考えて動いてもらうのも良いですし、シャワークライミングなどで募集をして関わってもらいたいです」
谷上:「新規就農者も含めて、佐治町に梨農家が増えると良いなと思います。効率よく作るとか、人手の問題とか、販路の問題とか少しずつ僕がチャレンジして仲間を増やしていければ良いかなと思っています」
鳥取市の県境の山奥の集落で、ゲストハウスを構えた農家のせがれの谷上さん。地域づくりに関わったことで、地域を全体的に見るようになり10年が経過しました。今年からは農業を軸足とはいいつつも、地域を一緒におもしろがる仲間を受け入れられるように工夫を続けておられました。そんな谷上さんに会いにゲストハウスに行っていただきたいですし、ワーキングホリデーにもチャレンジして欲しいなと思いました。
谷上雄亮(たにがみゆうすけ)
たにがみ農園(梨農家)
・山王アウトドアクラブ代表 ・佐治青年団(鳥取県連合青年団)代表
・ゲストハウス「余戸宿」運営
鳥取市佐治町生まれ、梨農家になるべく農業高校へ進学し、鳥取県外の農業研修機関にて研修。研修機関があった土地で飲食店勤務のあと、実家のある佐治へ戻りまちづくり会社に就職しながら農家の息子の二足の草鞋を開始。2019年より梨農家に軸足をおくようになる。
(谷上さんが関係するグループの情報)
たにがみ農園 http://tanigami-nouen.jp/
山王アウトドアクラブ https://www.tottori-sanou.com/
鳥取県連合青年団 https://tottoriseinen.at.webry.info/
ふるさとワーホリ”たにがみ農園”
(概要)https://furusato-work.jp/worklist/works-12403/
(連絡先)info@tanigami-nouen.jp(担当:谷上雄亮)
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