地域を発信し、地域とともに育つ。『ローカルジャーナリスト養成講座』開催レポート

ここ最近、Facebookやクラウドファンディング上で『◯◯を立ち上げます!』と地域プロジェクト誕生の産声を聞く機会が多くなりました。

喜ばしく、力強く思う一方で、『活動が継続しない』『立ち上がったのはいいけど、人が集まらない』などの課題に直面する現状も聞こえ、地域やその活動を『知ってもらう』情報発信への関心が高まっていると感じます。

こうした問題意識に対して『鳥取をおもしろがる人』を起点に地域内外を繋ぐことに取り組む『おもしろがろう、鳥取』では、“地域に暮らし、地域を発信する”ための取材と文章を書く技術を学ぶ『ローカルジャーナリスト養成講座』を開催。

講師を務めるのは『帰ってこれる島根を創る』をテーマに株式会社MYTURNの代表や一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォームなど複数の肩書きを持って働く本宮理恵(@rietana)さん。

「わたしが一方的にお伝えするのではなくて、お互いに話し、考える、ここにいるみなさんと一緒に学んでいきたい」という本宮さんの呼びかけのもと、『ローカルの発信に興味がある』『ライターの仕事をしていて、改めて基本を学びたい』と考える学生や社会人、総勢20名とともに、レクチャーとワークショップを行き交う学びがはじまりました。

地域に暮らし、地域を発信する

イベント冒頭では、そもそも『ローカルジャーナリスト』とは一体何者なのか?本宮さん自身の体験をもとに、こう説明されました。

本宮:「わたし自身も都市で暮らしていて、『地方のニュースが耳に入ってこない』という気づきがありました。地方から発信はしているんだけど、地域外へと届いていない。誰か一人が発信しても情報は伝わりきらないので、地域に暮らす多様な人が、地域を発信する必要性を感じていました。

ただ、発信して終わりではなくて、地域の良いことも悪いこともありのままに伝え、課題を認識してもらう。そして、生活者とともに課題に取り組みながら、継続的に地域のニュースを外に発信する人のことを『ローカルジャーナリスト』と呼んでいます。」

本宮理恵:株式会社MYTURN代表取締役。島根県安来市生まれ。大学卒業後、(株)リクルートを経て島根にUターン。「帰って来れる島根をつくる」をテーマに、NPO法人てごねっと石見の理事のほか、教育魅力化コーディネーターを務める。


聞く・書く技術だけではなく、地域に根ざし、地域と向き合う姿勢を『ローカルジャーナリスト』では大切に考えています。

ニュースは自分ごとから生み出される

ニュースは何も、事件や事故、新しい、珍しい出来事の報道やお知らせだけではありません。地域で暮らす人たちの喜怒哀楽や伝統行事・イベントの様子、新規オープンの情報など、多様なことがニュースとして伝えられています。

本宮さんは『ニュースの発見を学ぶ』という目的を立てながら、創る側として日常に目を向けてみようと投げかけました。

本宮:「日常生活の中で、人によって通り過ぎるものもあれば、「これは何?!」と足を止めることもあります。驚いたり、嬉しくなったり、悲しくなったり。自分の心が動いたときが、ニュースの種が見つかった瞬間なんです。

自分の身の回りに起きたニュースを書いてみて、どうしてそれを選んだのか?気になったんだろう?を考えてみてください。」

取材を通して、相手のことを知る

本宮:「仕事でのやり取りは、何が起こっているのか?事実関係を探りがちです。でも今日は、『どうしてそのニュースを選んだんだろう?』『どうして相手がおもしろいと思ったんだろう?』と、事実を突き詰めるのではなくて、相手を知ることを心がけてみてほしい。」

ペアワークでは話し手、聞き手に分かれ、『どうしてそのニュースを選んだんですか?』『どこにおもしろさを感じましたか?』と取材形式で進行。ほとんどが初対面ながら、随所で笑い声が生まれるほど和やかな雰囲気で取材が進んでいました。


お互いが話し手・聞き手を体験した後、数名から感想が共有されました。

参加者(聞き手役):「どうしてそのニュースが気になったんだろう?その問いかけから、相手の人となりが見えてきました。住んでる場所、夢、学んでいることなど、興味を持つに至ったいくつものきっかけを知れておもしろかった。」

参加者(話し手):「無意識に面白いと思っていたんですが、問いかけられることで自分の中から湧き上がるものがありました。わたしは人口減少に直面する村が『農作業を村総出でやった』という記事を選びました。後継者不足に困っていても、近所の人たちでなんとかしようと立ち上がったことと、将来農業に関わりたいと思っていたから興味を持ったんだと気づきました。」

「伝えたい」ときに大切な、3つの円

『自分の心が動き、誰かに伝えたい、地域のことを遠くの人にも知ってほしい!』と思ったときに、その情報が『伝わる』ためには、『3つの円』が重なる場所を探すことがヒントになります。

本宮:「これはニュースかな?!と思えるコトも、自分のどきどきやワクワクがなかったり、地域の人に知ってもらいたいと思えなければ、ニュースにすることは難しいかもしれません。3つの円が重なることが、ニュースとして育っていく条件になっています。」

地域を消費しない

地域の暮らしは楽しいけど、その価値が伝わらないから、自分たちで発信しよう!と考える人が増えてきています。けれどーー、ローカルジャーナリストの姿勢として欠かせない地域との向き合い方を考えてほしいと本宮さんは続けます。

本宮:「地域側の立場を想像してみてください。毎年、何回も、色んな人が入れ替わり立ち代わり取材に来られたらどうでしょうか。同じような質問、同じような記事が出来上がっても、地域の人にとっては嬉しいことではないかもしれません。

先ほどのインタビューワークのように、出会って、お互いを知ったり、そこから新たな横のつながりが生まれたり、取材を通して新しい自分に気づくことができたり。

自分たちの都合の良いように地域を消費するのではなくて、取材する地域に、目の前の人に、どんな価値を提供できるかーー地域と向き合う姿勢も大切にしてほしいと思っています。」

感動の裏側にある事実を調べる

ニュースを発見したら、次は『書く』こと。『ここのラーメンはおいしい』を事例に上げながら、『客観的事実を調べる』ことの大切さについて紹介されました。

本宮:「おいしいは自分の主観です。おいしいと感動した、その裏側にある事実を調べてみてください。例えば、『この味は、どんな素材が使われている?産地は?つくっている人は?』感動をヒントに客観的な事実を調べることで、正しい情報を、あなただけにしか言えない形で伝えることができるようになります。」

自分事というキーワード(感想シェア)

本宮さんからのレクチャーと参加者同士のワークを行き交い、4時間の講座もクロージングへ。最後に、会場全体で感想の共有が行われました。

参加者:「わたしは、なぜ取材に行きたいのかを改めて考えることが出来ました。手の届く範囲だけが自分事ではないとも気づき、自分事だと思える範囲を広げて、もっとおもしろいことを見つけていきたい。」

参加者:「印象に残っているのは、自分事というキーワードです。生活者として地域に向き合って、地域のことを書いていくために、生活者として地域をしっかりと観ること大切にしていきたい。」


「地域を発信する」を実践するために

ローカルジャーナリストとは、単に地域から情報を発信するのではなく、『地域と向き合う姿勢』を大切にし、地域とともに育つーーそんな関係性を築いているように感じられました。

『自分事で地域を観る』や『心の動きの裏側を探る』など、地域に暮らし、地域を発信するための手がかりを、参加者それぞれが掴めたようでした。

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このレポートをまとめながら、『読みたいことを、書けばいい』という本を思い出しました。著者が登場する記事に、こんな一節があります。

事象と心象が交わるところに生まれるのが「随筆」。その「随筆」において、まず大事なのは、「何を書いたか」より「誰が書いたか」。
(中略)
「何を書いたか」より「誰が書いたか」と言いましたけど、もっと大事なことは「なぜ書くか」。そこに感動がなければ、書く意味がないんです。
引用:https://www.1101.com/n/s/yomitaikoto/2019-10-09.html

取材や情報発信というと、『どんな見出しをつけると閲覧数が上がるか』と、つい手法に関心がいってしまいがち。

まずは、自分の感動に目を向けてみること、地域と向き合うこと。そこから、地域を発信する活動ははじまります。

勤労感謝の日にも関わらず、学ぶ意欲あふれる約20名が参加した『ローカルジャーナリスト養成講座』。講座終了後も会場を後にしない様子を見ながら、この場から新たな『ローカルジャーナリスト』が生まれる予感を感じました。

おもしろがろう、鳥取

人が少ないか、チャンスが多いか お金がないか、知恵を出し合うか なにもないか、なんでもつくれるか。 地域には、「おもしろがる」人が必要だ。 おもしろがろう、鳥取。