地域の中に、多くの出会いときっかけを ー 鳥取城北高校 大山力也さん

みなさんが思い描く『高校の先生』はどのような方でしょうか?

今回は『高校生と地域をつなぐ』をテーマに、地域に出会いときっかけを生み出されている鳥取城北高校教員 兼日本財団地域コーディネーターの大山力也さんにお話を伺いました。

一人の人間像が立体的に見えるのがおもしろい

大学時代は、アカペラサークルで活動するとともに、多くのアルバイトを経験されていた大山さん。もともとマスコミに興味をもっていたため、大学入学当初は自分が教員になるとは考えてもいなかった。転機が訪れたのは、小学生を対象とした、卒業旅行や自然体験の引率アルバイトに参加したときだった。

「一番好きな時間は夜でしたね。先生たちが鬼の仮面を外して、情報共有や会議を行う時間。そこで一人の子供の名前が上がるんです。『あの子、今日もこんないたずらしてたよ』『でもこんな良いところもあるよ』『私にはこんな表情も見せてくれるよ』なんて会話が目の前で行われていて。一人の人間像が立体的に見えるのがおもしろいなと思いました。」

その経験から、大山さんはこれまで考えていた進路を変更し、教員を目指すことを決意。児童館の非常勤職員を務めるなど、幅広い年代の子供たちと関わりながら、どの年代の子供に最も自分が貢献できるかを模索していた。

高校の教員になろうと思ったきっかけは、小学校教員になるための研修を受けているときだった。

「研修を受けている途中で『自分は小学校の教員には向いていないな』と思いました。小学校は教える教科が多岐にわたりますが、自分は専門を突き詰める方が好きだと気づいたんです。話したい内容も小難しいものが多いですし。そういった話を理解できる年齢層を対象にしたほうがいいなと思い、高校の先生になろうと決めました。」

決め手は「下からの突き上げ」

大学を卒業し、教職大学院へ進学した大山さんは、都立の中高一貫校で二年間研修を行った。その後、山梨県の高校で一年間非常勤講師を務めた。様々な土地で経験を積んだ大山さんが「鳥取」を選んだ決め手はなんだったのだろうか。

「鳥取には縁もゆかりもありませんでした。たまたまフェイスブックで『おもしろい学校がある』という記事が流れてきて、鳥取城北高校について知りました。当時の僕は、組織の中での『上からの押さえつけ』をネックに感じていたのですが、城北高校は、若手の提案でスクールバスを導入したり、アクティブラーニングを取り入れたりしていて。『下からの突き上げ』で学校をより良いものにしていこうという勢いを感じました。」

「当時、鳥取に行くという人を聞いたことがなかったですし。最後はノリと勢いでしたね笑」

<鳥取城北高校の図書館を案内していただきました>

衝撃的な体験をすると人は変わる

社会科担当として生徒に授業を教えている大山さん。その一方で「総合探求主任」という役職も任されているというが、どのような仕事内容なのだろうか。

「2020年に学習指導要領が改訂され、今後の高校教育の方向性が変わっていきます。その方向性の一つである『社会に開かれた教育課程』の実現に向けて、学校と地域(社会)の連携がいっそう重要になります。それに際し、地域との連携を高めた『総合学習』の授業内容や指導案を作成・実施しています。」

「具体的な取り組みとしては、鳥取在住の社会人の方に自身の働き方や、鳥取をこうしていきたいという思いを話して頂く『地域連携講座』や、生徒が地域の商店街へ伺い、そこで見つけた課題を解決する提案を行う『商店街フィールドワーク』などです。これらは『研志コース』といって、将来地元に残り、地域の発展に貢献したいと思っている生徒に向けての授業になります。」

「一方で、大学進学を目指す『志学コース』では『起業家教育プログラム』を行っています。起業して自らが地域の雇用を増やすという新しい回路があると知ってもらうこと、生徒自身の将来の選択肢を広げることを狙いとした授業になります。」

総合学習の取り組みを通して、生徒達の変化を大きく実感したという。

「座学だけでは、学びの意味を成さないと実感しましたね。実際に体験する機会が授業の中で必要だなと。」

「二年生の授業で、児童労働の問題を取り扱ったことがありました。授業を行ってくれた団体に協力してもらい、国際問題について関心を持った生徒十数名とフィリピンに現地視察ツアーに行ったんです。自分の目で世界の現状を見た生徒たちは、これまでにないほどの強い衝撃を受けました。ツアー後『国際的な問題を解決したい、それを学ぶために大学に進みたい』と言う子が何人か出てきました。」

「『衝撃的な体験をすると人は変わる』ということを改めて感じました。『他の人がやるから勉強する』ではなく、強い体験が動機となって、自分のやりたい方向へ突き進んで行く。それこそが理想の学びであると感じました。」

世代の価値観を理解しながら、言語をそろえていく

大山さんは城北高校で教員をしながら、日本財団の『地域コーディネーター』としても活動されている。地域コーディネーターの主な役割は、地域に住んでいる、これまであまり関わりのなかった方同士がつながるための機会を作ること。大山さんは、教員という立場を生かし「教育」というテーマで様々な方をつないでいる。

「『高校生と地域をつなぐ』がテーマですね。自分の価値を地域に提供しやすい部分だと思っています。学校での活動は、どうしても大勢の生徒に対して教える形になってしまうため、参加している生徒が授業を自分事として捉えにくい空間になってしまいます。一方で、地域コーディネーターとして行うイベントでは、15人程の小規模な形で行うため、参加者同士が膝を詰めて話せる空間を作ることができるんです。」

「お互いが誰であるかを認識し、そこからつながりが生まれ、お互いの刺激になっていると感じていて。今後は学校でも、大規模と小規模の空間をうまく組み合わせた学びの場を作りたいですね。」

「地域と学校が連携するためには、各世代の方が集まる場を作り、価値観の違いを理解すること、言語をそろえていくことが必要になります。地域の方は、まず今の高校生が何に興味をもっているのかを知ることが大切なのかなと。学校としては、生徒が地域へ参加するハードルを下げるために、学校の中に地域へのハブを作ることが必要だと思います。」

「地域全体として、特定の人や限られたグループの中で活動するのではなく、それぞれの分野や垣根を超えた交流がもっと増えていくのが理想です。みんなで目標やゴールを揃えることが、連携の鍵を握っていると思いますね。」

最後に、これからの展望を伺った。

「どんどんおもしろいことをやっていきたいですね。ITが地方を盛り上げていくために重要な産業になっていくと考えていて。高校生がIT、ウェブデザイン、プログラミングを学ぶ場を作りたいですね。そのために、自分自身もそれらに関する知識を身につけたいなと。ITを専門としている人とも繋がっていきたいです。」

大山さんの熱意と行動力が、鳥取をさらに面白くしていく。

これからの鳥取の未来にワクワクを感じました。

おもしろがろう、鳥取

人が少ないか、チャンスが多いか お金がないか、知恵を出し合うか なにもないか、なんでもつくれるか。 地域には、「おもしろがる」人が必要だ。 おもしろがろう、鳥取。